着るほど馴染むセリーヌの夏服
2027年春夏のセリーヌ(CELINE)が見せたのは、クローゼットの中で完璧に整った服ではなく、実際の暮らしの中へ持ち出した瞬間から魅力を増していくワードローブだった。2026年6月28日にフランス・パリで披露されたメンズコレクションでは、アーティスティック・ディレクターのマイケル・ライダーが、旅行や休暇、都市で過ごす日常といった複数の時間を一続きに捉えている。端正なジャケットから少しシワの残るシャツ、個性的なシューズまで、服をきれいに見せることだけに重点を置かず、着る人が動いた後の姿までデザインの一部として受け入れている点が印象に残る。
夏の日々へ溶け込む自由な服
マイケル・ライダーが今回のコレクションで意識したのは、「タフであり、繊細であること」「身軽な旅支度」「フリースタイル」といった考え方だ。
旅行のためだけに用意した服でも、仕事や街歩きだけを想定した服でもない。遠くへ出かける日と、いつもの場所で過ごす日を明確に分けず、さまざまな場面へ自然に持ち込めるアイテムが並んだ。そこには、夏の休暇で初めて訪れる土地だけでなく、一度知った場所へ再び戻っていく時間も重ねられている。
中心となるのはジャケット、シャツ、ニットなど見慣れたメンズウェアだが、着こなしは必要以上にかしこまっていない。きれいな輪郭を維持しながら身体の周囲に余裕をつくり、軽いレイヤードやスカーフによって表情を変化させる。フォーマルとカジュアルのどちらかへ寄せ切らないため、都会の街並みから静かな休暇先まで、異なる場所を行き来できるスタイルへ仕上がっている。
ルールから少し外れるシルエット
一見するとオーソドックスな服にも、近づいて見ると小さな変化が加えられている。
テーラードジャケットやシャツがつくる整然とした印象に対し、ニットでは袖を通常より長く取り、左右の均衡をあえて崩したアシンメトリーなフォルムも採用。服全体を奇抜に変形させるのではなく、ほんのわずかな違いを残すことで、日常的なアイテムの見え方を変えている。
スタイリングでも同様に、プレッピーな装いだけで完結させてはいない。頭に巻いたスカーフ、ネイティブアメリカンの雰囲気を思わせるニット、色の滲みが目を引くタイダイシャツなどを重ね、異なる要素を一つのルックへ取り込んだ。
ナードやエスニックといったムードまで交差するが、それぞれの個性を強く押し出すのではなく、ベーシックな服を土台にすることで全体のバランスを保っている。
トリオンフモチーフの扱いにも工夫が見られる。必ずしも視線が集まりやすい場所へ配置せず、あえて中心から外したり、スカーフの中へさりげなく取り入れたりすることで、装飾を発見する楽しさを生み出した。遠目にはシンプル、近くでは少し意外。その距離による印象の変化も今回のルックを特徴づけている。
シワまで味方につける天然素材
軽快なシルエットを支えているのが、リネンやコットンをはじめとした天然素材だ。
暑い時期を想像させる涼やかな素材を選びながら、表面を均一に仕上げることにはこだわっていない。シャツには平たくプレスしたような独特の表情を加えたものがある一方、別のルックでは折りたたんだ状態から広げたばかりのようなシワをあえて残している。
スーツケースに服を入れて旅をすれば、移動中に折り目がつくこともある。通常なら取り除きたくなるそうした痕跡を、今回は生活のリアリティとして受け入れた。
そのため、素材が整いすぎていないこと自体がスタイルの魅力につながっている。ジャケットを合わせても堅くなりすぎず、シャツ一枚でも単純なリラックスウェアには見えない。仕立ての美しさと自然な使用感を同じルックの中へ置くことで、肩の力を抜いたエレガンスが生み出された。
リーボックとの一足にも時間の表情
ウェアに表れた「使われた後の美しさ」は、足元にもつながっている。
リーボック(Reebok)とのパートナーシップによって登場した新作スニーカーは、1980年代を代表するエアロビクスシューズ「フリースタイル(Freestyle)」がベース。スポーツシューズとして親しまれてきた形を生かしながら、ガーメントレザーを用いて柔らかな質感へ仕上げている。
特徴的なのは、新品特有の均一な表情よりも、すでに何度か履いたかのような風合いを持たせていることだ。アッパーにはパンチング加工でトリオンフモチーフを表現し、装飾と素材感を一体化。大きなマークを正面に置く方法とは異なる、控えめなブランド表現となった。
さらにコレクションには、コインを並べたようなフラットシューズや、ビリヤードボールを思わせるネックレスも登場している。ジャケットやシャツを中心とする落ち着いたスタイルの合間に、こうした少しユーモラスなアイテムが加わることで、ルックの緊張感がほどよく和らげられていた。
今回のセリーヌが提案する夏服は、着用する前が完成形ではない。袖を通し、街を歩き、荷物へ詰め、再び取り出す。そうした時間を重ねるほど素材の表情が変わり、服が着る人の日常へ馴染んでいく。
整った仕立てと長い袖、左右のずれ、天然素材のシワ、履き慣れたようなレザー。従来なら整えるべきものとして扱われる部分まで積極的に残すことで、2027年春夏のセリーヌは、完成されすぎないからこそ心地よい、新たなメンズワードローブを形にした。


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